伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

 

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

 

 当然だけど小説ってのは長編より短編のが気軽に読めるしわかりやすくまとまっている。そのジャンルが推理小説だとちょっと物足りなく感じたりもするけれど、SFだった場合なかなかちょうどいいボリュームであると思うものが多い気がする。まとまった時間が取れないときは短編集を読むのがベストだ。

 私自身トリビュートというのはあんまり好かないけど、今回のこの一冊は片手間にではあるが動向を見守っている作家が三人もいるし、装丁も個人的にお気に入りだった虐殺器官のオマージュになっている(たぶん)。ぶっちゃけその二つだけで購入する理由には十分だった。

 収録作品は全八編。合わせて700ページ超えの大ボリューム。好む好まないは個人の感性というか、興味の問題であることをあらかじめ言ってからいうと、結論として、柴田勝家の「南十字星」以外はかなり楽しめた。

公正的戦闘規範

 中でも一番気に入ったのは、最初を飾った藤井太洋の「公正的戦闘規範」。

 ドローンによるテロが横行している近未来の中国が舞台。

 スマートフォンやらドローン兵器など、なかなかタイムリーなものを使ったSFになっていたと思う。内容もオマージュらしいというか、トリビュート集の開幕にふさわしいものであった。ただ終わり方はちょっと・・・。

仮想の在処

 電脳(?)化された姉とその妹の話。

 いろいろと「ハーモニー」を意識しているなぁと感じられた。読後の気持ちとしては切ないや悲しいに似たり寄ったりなものを抱いた。

南十字星

 上にも書いたけど、唯一この作品だけいまいち入れなかった。もしかしたら文体で入れなかったかもしれないので、そのうち氏のデビュー作、「ニルヤの島」を読んで確かめたいと思う。

未明の晩餐

 実は本書を買った一番の目的は、デビュー作「パンツァークラウン フェイセズ」と、そのスピンオフ「パンツァークラウン レイヴズ」以降、オリジナルの新作を楽しみにしていた吉上亮の「未明の晩餐」。

 終始特に盛り上がりどころとかなかった気がするけど、雰囲気は良かった。あとがきによると、もともとデビュー後第二長編として考えてしたものらしい。氏のTwitterを見ると、どうやら料理をよくするようで、それがうまく作品に現れていたように思える。

にんげんのくに

 文明の廃れた人間の村での異人の話。

 最初読んでて「これSFか?」って思ったけど、たしかにSF。前半はあんまり面白く感じなかったけど、後半は良かった。ただあまり自分が好みの方面ではないかなぁ。

ノット・ワンダフル・ワールズ

 巨大企業を舞台にしたサスペンス。

 最後のアレは正直溜息が出てしまった、とだけ。

フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪

 魂の存在証明について。「屍者の帝国」よろしく歴史上の偉人らが多く登場する。

 個人的には「公正的戦闘規範」の次に面白かった。切り裂きジャック新選組沖田の立ち合いなどもあり、なかなか見応えのあるエンターテインメントじゃないかな。

怠惰の大罪

 とある麻薬王の話。

 結構グロい描写もあったけど、「フランケンシュタイン三原則」の次点は個人的にこれ。ページ数はたぶん八編の中で一番多い。

 あとがきによると長編の第一章だそうで。まとめて出たらぜひ読みたいと思う。